2009年9月24日木曜日

第十一回 色についてのあれこれ「退紅」

 ブログをご覧の皆さま、こんにちは。

 皆様、連休中はどこかへ行かれましたでしょうか? 私は連休中、山でボーッと葉っぱを見たり、琵琶湖へ出かけてボーっと空を見ていたりと非常に充実した休日を過ごしていました(マテ。いまだ連休気分が抜けません(ぉぃ。
 九月も下旬になると過ごしやすいですね。天気のいい日にはふらふらと出歩きたくなってしまいます。五月が若葉なら、秋は空。空の色が一番きれいなのはこの時期でしょう。色名でいうなら空色、東雲、茜色。曙、群青、そして天。昔の人もぼんやりと空を眺めていたことがあったのだと思います。空にちなんだ色というのは透明で澄んでいて、思った色に染めるのが難しいのですが、そこがまた気に入っていたりもします。

 さて、今日紹介させていただく色は「退紅」。
 空とは全く関係のない色です(ぇ。
 ……素直に前振りにちなんだ色を紹介しない、Colour Labから「退紅」についてお届けしますー。

「退紅(あらそめ、たいこう) : 別名 粗染(あらそめ) 褪紅(たいこう)」

 皆様は上の色見本を見てどう思われるでしょうか?色として見るなら一斤染よりもやや薄い、柔らかみのあるピンク色。桜色よりも濃く、一斤染の色よりも薄いこの色が退紅と呼ばれる古色です。人によって色の好みがあると思うので、好きな色か嫌いな色かは意見が分かれると思いますが、この色を見て、「下賤な色」と思われる方はおられないでしょう。が、大昔、この色はそういう意味をもつ色でした。

 前回の薄色の説明で、「身分によって着る色が制限される」という話をしました。これは奈良時代だけの話ではなく、平安の世でも同じようなことが行われていました。退紅の別名、褪紅は「褪せた紅」からとられたのでしょうが、この別名からもご想像いただけるように身分の低いものの衣服に用いられた色です。たとえば、雑用のために諸国から徴収された仕丁や雑役の服色とされましたし、下官の狩衣の色もまたこの色でした。驚いたことに、この色は着用する者の代名詞として使用されていました。身分や役柄ではなく、もちろん名前ですらない、「退紅」という色名が身分の低いものの呼び名であった、そういう時代があったということです(この場合、退紅はあらそめ、ではなく、「たいこう」と呼んだそうです)。

 昔の色の良し悪し、というものは染料が高価かどうかに大きく依存しているように思います。この退紅が下賤の色として扱われたのはその染め方が、紅花の絞り粕を用いたことが大きく関係しているのでしょう。色が卑しいから下賤な色、ということではありません。当然ながら。私はこの退紅をいい色だと思いますし、そういう感性をもつ人は平安の昔にも多かったはずです。

 鎌倉時代の春日権現験記絵巻には貴人もまた、日常のくつろいだ生活の中では下級色に区分されていた退紅なども着用しているさまが描かれています。このことからも退紅は当時の人に好かれていたのだと、そう思います。千年以上、色名が消えず伝えられてきたのですから。

 以上、色についてのあれこれ 「退紅」。

 ここまでにしたいと思います。お付き合いいただきありがとうございました。

 それでは次のブログでお会いしましょう。長文失礼しました。

2009年9月14日月曜日

第十回 色についてのあれこれ「黄蘗色」

 ブログをご覧の皆さまこんにちは。
 いつものようにColour Labからお届けします。前置きなくさくさく行きましょう。
 第十回「色についてのあれこれ」はじめたいと思いますー。

「黄蘗(きはだ)」

 古色についての本を紐解くと、読み方がわからない色名の出会うことがあります。振り仮名をうってくれているものは問題ないのですが、「読めるものなら読んでみろ」とばかりに、漢字だけの資料もあったりします。もちろん私はこの「黄蘗(きはだ)」を振り仮名なしに読むことはできなかったのですが(ぉぃ、読み方の難しい色のわりに、名前の由来は非常にシンプル。

 ミカン科の落葉広葉樹に「黄蘗」という木があります。……もう答えが出てるようなものですが、一応解説を続けます。この「黄蘗」がこの綺麗な黄色の染料のもとになります。この木の樹皮の内側にはコルク状の層があって、これを煎じます。その煎じた液を染液のようにもちいて、これに布や糸を浸すと、見本のようなやや緑味のある黄色に染まります。非常のお手軽です(ぇ。「黄蘗」からとれる染料で染めた色だから「黄蘗色」ということなのでしょう。この黄蘗の木から染液を取り出して染める手法は大陸から伝えられ、奈良時代でも染められていたものと思われます。 

 「黄蘗」は染料としてだけではなく薬用(健胃整腸剤、傷薬などの漢方薬)としても用いられました。加えて、「黄蘗」で染めたものは防虫の効果があるとされ、経典の書写のときには紙を事前に「黄蘗」で染めて使用されていました(このような「黄蘗」で染めた紙を黄蘗紙、または黄染紙といわれています)。

 さて、この黄蘗に限らず黄色系の色を染める時は器具をよく洗浄する必要があります。……もちろん他の色でも使用する器具の洗浄が必要なのは当たり前なのですが、黄色は特に他の系統の色が混じった際、大きく色が濁ってしまいます。わずかな汚れでもかなり目立ちますのでご注意を。

 染めるのは難しくないけれど、器具の洗浄が大変な面倒くさい色ですね。個人的な感想を言わせていただきますと。

 さて、色についてのあれこれ「黄蘗」。
 ここまでにしたいと思いますー。

 お付き合いいただきありがとうございました。次のブログでお会いしましょう。
 長文失礼しました。
遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室


 

2009年9月11日金曜日

第九回 色についてのあれこれ「薄色」

 ブログをご覧の皆さま、こんばんは。
 ちょっと広報から。

 第17回インターナショナル・キルトウィーク横浜がパシフィコ横浜で2009年11月12日(木)~14日(土)に開催されます。A.F.Eも去年参加させていただいたのですが、今年も無事参加させていただけることになりました。ブース番号はB-5で、出張販売もさせていただくことと思います。皆さま、ご都合があえば是非ご来店くださいませ。HPに出してないものも店頭に並ぶと思いますー。

 以上、広報でした。

 さて、前回に引き続き色についてのあれこれ。
 今日は「薄色」を紹介させていただきたいと思います。

「薄色(うすいろ) (別名:浅紫)」
 

 大昔、着衣の色がその人の身分を示す、という時代がありました。「冠位十二階」なんかは教科書にも記述されるのでご存知の方も多いと思います。そこでは、一番身分の高い大徳は濃紫の着衣が許されていました(冠位十二階に定められた身分と色については、不確かなものがあります。というのは、「日本書紀」に書かれた「冠位十二階」の記述には位階に対応する色というものが記述されていません。つまり、教科書で教わった徳は紫、仁は青、礼は赤、信は黄、義は白、智は黒、という色分けはあくまで「この組み合わせの可能性が高い」というものであって断定できるものではないそうです。が、ここでは通説通り、大徳は濃紫と記述させていただきます)。

 紫の染料の原料は古代では非常に希少でした。

 古代、紫の染料を得るには二つ手法があったのですが、双方難しいものだったようです。紫は紫草の根からとる方法、巻き貝から取り出す手法があるのですが、紫草は栽培がそもそも難しく、巻き貝からは一個あたり、ほんの少ししか取れないために紫の染料は高価にならざるをえませんでした。日本では巻き貝から紫の染料をとることはあまりされていませんでしたが、西洋ではある種の巻き貝が絶滅してしまうほどの乱獲が行われたそうです。なんでも貝紫の染料と黄金が同じ価値だったとか。

 それはともかく。紫色はその希少さゆえ、高貴な色として取り扱われたのでしょう。それは平安の時代になっても続くことになりました。

 平安時代にあっても紫は特別な色であり続けました。深紫(こきいろ)は禁色として取り扱わます。深紫のルビ、「こきいろ」は書き間違いではありません。深紫と書いて「こきいろ」です。「こいむらさき」とは言いません。色と言えば紫。そういう意識があったのかもしれません。この呼び名からもどれほど紫色がほかの色から別格視されていたのかうかがうことができます。

 「薄紫色」と書かずに「薄色」と書かれていることからもお分かりいただけるように、この「薄色」も特別な色でした。『延喜式』で定められた三段階の紫のうち最も浅い色であり、中紫に次ぐ上位の色でした。
 しかし、後に色が薄いことからやがて禁色からは別扱いになり、誰でも身につけることが許される「聴色(ゆるしいろ)」とされています。
 そのこともあってか、「源氏物語」、「枕草子」、「狭衣物語」、などこの色の装束について記述したものが多いですね。

 以上、色についてのあれこれ「薄色」。
 ここまでにしたいと思います。

 お付き合いいただきありがとうございました。
 次のブログでお会いしましょう。失礼しました。

遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室

2009年9月7日月曜日

第八回 色についてのあれこれ 「鶸色」、「鶸萌黄」

ブログをご覧の皆さまこんばんは。

 京都でも夕暮れくらいから秋虫が鳴くようになりました。途絶えることなく「リーリー」と鳴る虫の音になんとなく耳を傾けながらColour Labからお届けします。第八回、色についてのあれこれ「鶸色」はじめたいと思いますー。

「鶸色(ひわいろ)」

 大陸から渡来する冬鳥に「鶸」がいます。この鶸色はこの鶸鳥の羽毛の色からとられたものなのですが、日本古色名の由来として鳥や毛皮の色などからとられるのは珍しいと言えるでしょう(余談になりますが、日本の和名の名前の由来は花や葉など、植物由来のものが多いのに対して、西洋では動物由来のものも多い傾向にあります。その理由は定かではありませんが、農耕民族であった日本人と狩猟民族であった西洋人との生活習慣の違いが色名に表れたのではないか、という話もあります)。

 鶸鳥は『枕草子』の中にも記述されているほど古来から知られている鳥なのですが、「鶸」という色名が定着したのは鎌倉時代になってから、というのが通説です(鎌倉時代の書物、『布衣記』が初出)。

 この鶸色は当時の日本人に愛された色の一つだったのかもしれません。「鶸色」から派生した色名が存在します。次にご紹介する「鶸萌黄」もその中のひとつ。次の色見本を見てみましょう。

「鶸萌黄(ひわもえぎ)」

 「鶸色」と「萌黄色」の中間にあることからこの色名がつけられたのでしょう。この名前が定着したのは江戸時代中期だと考えられています(江戸時代の染法書、『染物早指南』に鶸萌黄の染め方が書いてあること、また同時期の染見本帳にも鶸萌黄の名が記されていることから)。この色名のもととなったもう一つの色、「萌黄」はご想像の通り、この鶸萌黄より濃く、緑味の強い色になります。 以上、色についてのあれこれ「鶸色」、「鶸萌黄」でした。

 紫系と橙系の色がないようなので、次はそれらの色をご紹介させていただきたいと思います。

 それでは皆様、お付き合いいただきありがとうございました。次のブログでお会いしましょう。

 失礼しました。

 遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室

2009年9月3日木曜日

第七回 色についてのあれこれ「甕覗」

ブログをご覧の皆さま、こんばんは。

 今年は秋が早いのでしょうか。例年、十月くらいまでは残暑が続くのに、今年は夕暮れになるといい風が吹いてくれます。御所でジージーうるさかった蝉の声もすっかり消えてしまいました。少しなごり惜しくもありますね。ではColour Labから色についてのあれこれ「瓶覗」。はじめたいと思いますー。

「瓶覗(かめのぞき) :(別名 覗色)」

 さて、「瓶覗」。

 古色の中ではかなり有名な色名なのでご存知の方もおられるかもしれませんね。この色名が呼ばれ始めたのは江戸時代。藍染めが盛んにおこなわれるようになった江戸時代からのものと伝えられています。瓶覗きの名の由来は私の知る限り二説あります。ひとつは「藍瓶をちょっとのぞいたくらい、ほんの少し浸した程度に染めた色、であることから名付けられた(つまり以前にお話しした「藍白(白殺し)と「瓶覗」を同じものとして扱うということ)」という説。おそらくこちらのほうが説として有力なのですが、この説を採用してしまうと以前、ご紹介した「藍白」の立場がなくなってしまいますので、ここでは第2説のほうの色目を採用させていただきました。

 もう一つの説のほうは「瓶に張られた水に空の色が映ったような色調であることから、瓶に写った空を覗き見た色、そこから「瓶覗」」、と名付けられたという説です。色見本を見ていただければお分かりいただけると思いますが、前出の白藍色よりもはるかに濃い色になっています(ちなみに、1説のほうの瓶覗の色を採用したとすると、その色目は以前ご紹介した「白藍色」をほんの少し濃くした感じの色になります)。瓶覗の名前の由来となったこの2説、いずれが正しいのかは明らかではありません。先ほど述べたように第一説目のほうが有力だと思いますが(第二説のほうを取り上げている資料は非常に稀)ですが、ここではあえてこの色調で。私はひねくれているのでマイナーな話が好きなのです(マテ。

 とはいうものの、この色についてはちょっと手直しもするかもしれません。瓶覗きについての色見本をもう一度洗いなおしてみようと思います。藍白色に近づける気はありませんが、実際に瓶に水を入れて空を写してみたら、もう少し色調を抑えたほうがいいようにも思いましたので。……こだわるときりがない気もしますが……。

 いずれにせよ「瓶覗」。しゃれっ気のあるいい名前だと思います。色の名前に良し悪しはないのかもしれませんが、昔の日本人たちは想像力をかきたてるような色名をたくさん残しているように思います。海外の色名はなんというか……ストレートなのが多いんですよね……。それはまた後日。

 では色についてのあれこれ「瓶覗」。ここで終わりたいと思いますー。次の色は「鶸」、「唐紅」、「粗染」、「香色」、「薄色」の中のどれかにしたいと思います。

 それでは皆様、お付き合いいただきありがとうございました。

 次のブログでお会いしましょう。長文失礼いたしました。

遠藤染工場 Colur Lab / Art Fiber Endo 商品企画室

2009年8月31日月曜日

第六回、色についてのあれこれ 「象牙色」

ブログをご覧の皆さま、こんばんは。

 ……順調にブログが更新されていくと逆に不安になりますね(オイ。
 前回に引き続き色についてのあれこれ「象牙色」はじめたいと思いますー。アパレル関連ではアイヴォリーと表現されることが多いのですが(というか、アイヴォリーの訳語が象牙ですので、そう表現されて当たり前なのですが)、このアイヴォリーという色名も非常に広範な色に用いられる呼び名です。

 ……正直に言うと、ものすごく薄い灰色は赤みがかっていようが、青みがかっていようが「アイヴォリー」と言っておけば問題ありません(マテ。それほど使い勝手のいい色名だということです。

 それでは前置きはここまでにして、色についてあれこれ「象牙色」はじめたいと思いますー。

「象牙色」

 ……桜や白藍、白緑の時も不安でしたが、まともにディスプレイ上に色が再現されているのでしょうかこの象牙色。見えていないことも考えて簡単に説明しますと、やや柔らかみのある灰、それをものすごく薄く染めています。 象牙色を黄みの白、という風に表現している書物もあるのですが、ここではそれを採用しておりません。黄みに若干の青みの灰をもたせております。あくまで「象牙色」の範囲内ではありますが。

 日本に初めて象が渡来したのは室町時代。だったらこの「象牙色」という色もそのときに伝わったのかというと、そうではないようです。前置きで「アイヴォリーの訳語が象牙色」という風に書きましたが、象牙色という名称は近代西洋文学が日本に輸入されたとき作られた色名、というのが通説のようです。江戸時代、根付や印鑑に象牙が使われていたはずですから、この象牙色、もう少し時代が古くてもおかしくないのではないかなぁ、と思うですが。……どうなんでしょうしょうね。和名でこの象牙色に近しい色、というと「鳥の子色」、「練色」、「蒸栗色」、「卯の花色」などを思いつくのですが、やはり象牙色のように黄の灰色、という色ではないようです。まぁ、昔からの和名になかったから「象牙色」なんて新しい色名をつくったのでしょうが……。……ちょっと色の見方が辛いんじゃないかなぁ……。

 たくさんの色名が生まれ消えていきましたが、この象牙色(アイヴォリー)はもっとも成功した色のひとつと言っていいでしょう。使い勝手もよく、服飾では欠かせない色の一つになっております。

 以上、「象牙色」でした。次の色は……「鶸」か「甕覗」あたりにしたいと思います。

 それでは今日はこのあたりで。お付き合いいただきありがとうございました。次のブログでお会いしましょう。

遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室

2009年8月27日木曜日

第五回、色についてのあれこれ「桑茶」

ブログをご覧の皆さま、こんばんはっ。

 Colour Labからのお届けになります。今日、取り上げる色は「桑茶」。この色名は染色技術が目覚ましく向上しはじめた江戸時代につけられたものです。

 実はこの桑茶、ここで紹介するべきかどうか悩んだ色でもあります。その理由は下でお話しするとして、第五回、色についてのあれこれ「桑茶」はじめたいと思いますー。

「桑茶」
 江戸時代には染色技術はますます向上し、さぞ街をゆく人々の着る服も華やかになっただろうな、と考えてしまいがちですが、実はそうではありません。支配階級の武士は質素倹約を庶民にも奨励(強制と言ったほうが正しいかもしれません)し、あろうことか普段着る服の色にまで難癖をつけてきました。素材は綿、または麻、着物の模様は言うに及ばず、色さえも最終的には、茶、鼠、納戸(紺)に限定されてしまったそうです。とんでもない話です。本当にもう。
 けれど、当時の染屋はものすごく頑張りました。
 幕府が限定した茶、鼠、納戸色の範囲内で多種多様な色を作り出し、世に送り出してゆきます。
 前回、桑茶を48茶100鼠の一色、という風に書きましたが、この「48茶100鼠」というのはそれほど多くの茶、鼠が江戸時代、世に送り出されたという意味です。茶色の色数が48、鼠の色数が100、ということではありませんのであしからず。……こんな数じゃおさまらないでしょう。おそらく。
 それはともかく。
 民衆のほうも新しく出回った染め色に名をつけて流行の担い手となっていきました。当時娯楽の担い手であった歌舞伎役者などが好んで着た色などは、その役者の名がとられ、東西問わず大流行したそうです(例えば団十郎茶、梅幸茶、路考茶などなど)。役者だけではなく、民衆のほうで好き勝手に呼んでいた色名が定着した例もあったりします(媚茶など)。……染屋冥利に尽きる、いい時代だったんだろうなぁ、とちょっと羨ましくも思えてしまいます。
 このような時代に桑茶は生まれました。前ふりはここまで(ぇ。
 
 さて、私がこの桑茶を紹介しようかどうか悩んだ理由ですが、実はこの桑茶のもととなっている色が大昔に存在します。それは「桑染」という色なのですが、やっかいなことに「桑染」と「桑茶」では原料、染色方法とも大きな差がありません。双方の初出の時代を考えると、色止めの方法に違いはあるとは思うのですが、それ以外はほぼ変わらないと資料には書いてあります。……どうしよう、これ(^^;。
 ものによっては「桑茶」と「桑染」を同色として扱っているものもある一方、「桑染」と「桑茶」を別色として扱っているものもあったりします。桑茶が染められていた江戸時代、並行して桑染という色の名前もたびたび出てきたりしています。……なんなんだこれは……orz。
 桑茶と桑染は同じ色なのか、それとも別物として取り扱うべきなのかどうかまだ正直判断出来かねているのですが、ここでは別色として挙げさせていただきます。出すべきかどうか悩んだのはこういう理由のためだったり。
 
 ……前ふりのほうが圧倒的に長いのはどうしてでしょうか。
 それは書くのに疲れたからだと、一人言い訳をして筆をおきたいと思います。
 次回、ご紹介する色は「象牙色」。
 気が変わらなければ象牙色でいきたいと思いますー。
 
 それでは今日はこのあたりで。
 お付き合いいただきありがとうございました。
 次のブログでお会いしましょう。失礼いたしました。
遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室
 

2009年8月20日木曜日

第四回 色についてのあれこれ「抹茶」

ブログをご覧の皆さまこんばんはっ。


盆も過ぎたというのにまだまだ染場が暑いです。秋はまだか。
今日もColour Labからお届けします。第四回色についてのあれこれ「抹茶」。
はじめたいと思いますー。

「抹茶(まっちゃ)」  お抹茶の色です。
 以上。


 ……。
 …………。
 ………………すいません、仕切りなおします。


 この抹茶色、JIS規格に規定されているほど有名な色なのですが、名前の背景があまり明らかではありません。お抹茶の色、ということですから、この名は茶の湯が民衆にも定着した江戸時代以降に加えられた色だと思います。茶の湯では「濃茶」と「薄茶」がありますが、色の質からして抹茶色は「濃茶」ではなく「薄茶」のほうからとられたのでしょう。

 茶が伝来した時の飲み方は「濃茶」のほうが主流で、楽しむというよりは薬用として飲用されていたそうです。その後、茶の湯が広まるにつれて手ごろな価格と飲みやすさで薄茶が飲まれるようになり、庶民にも定着しました。
 そして、だからこそ、「抹茶」の色は「濃茶」ではなく「薄茶」からとられたのだと思います。庶民が色の名前を決めたのだと(さらりと書きましたが、これはものすごく重要なことだと思っています。そのあたりのお話は後日)。 
 芸術でもあり、娯楽でもあった茶の湯を確立させた千利休は色名にも非常に大きな影響をもたらしました。彼の名前は色の名でも残され、緑がかった色には「利休」の名がつけられているものがあります。利休色、利休茶、利休鼠、利休白茶、利休生壁など(利休白茶はちょっと違うかもしれませんが)。実は、抹茶色は利休色と同じものだという説もあるのですが、ここでは利休色と抹茶色は別物として扱わせていただきます。なんか、もったいないように思いますので。

 とはいえ、抹茶色。落ち着いたいい色だと思います。

 次回の色は48茶100鼠の一色、「桑茶」を紹介したいと思います。
 ……ほかの色にするかもしれませんが(←ならなぜ予告をする)。

 ちょっと短いような気もしますが普段が長すぎるのでしょう。
 第四回、色についてのあれこれ「抹茶」。
 ここまでにしたいと思います。
 読んでくださった皆様、ありがとうございました。次のブログでお会いしましょう。それでは……。

遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室

2009年8月17日月曜日

第三回 色についてのあれこれ「白藍」、「白緑」

ブログをご覧の皆さま、こんにちはっ。

前回に引き続き、今日もColour Labからお届けします。

「一回につき一色のペースだと全色紹介するまでに何十年かかるの?」というあまり聞きたくなかった一言をちくりと周りから言われましたので今回は二色同時に紹介させていただきます。このシリーズ、始めた当初から予想していたとおり、ものすごく長いものになりそうです。皆様におかれましてもどうか、どうか気長に見てやっていただければと思います。三十年以内には完成させる気でいますので(←気が長すぎる人)。

では、第三回、色についてのあれこれ。「白藍」、「白緑」。はじめたいと思いますー。

「白藍(しろあい)」(別名 藍白、白殺し)



 上の色見本に筋模様が入っているのは気になさらないでください。一般に「杉綾」と呼ばれる素材を「白藍(藍白、白殺し。以下、白藍」と記述します)」に染めたものが上のものになります。

 さて、前回の桜色は紅染めで最も薄い、と記述しましたが、藍系列で最も薄いとされているのがこの白藍色となります(ただし日本伝統古色の中のお話)。お察しの通り、現在ではこの色よりもより薄く淡い染め色、というのもあるのですが(たとえば、有名どころではSnow Blueなど)、あまり一般的ではありません。アパレル関連では上の白藍よりも若干濃くてもすごく薄くてもサックスブルー、あるいは単にサックス、と呼ばれています。アパレル業界で万能すぎますサックスブルー。

 話を戻して。

 一番薄い藍、という風に言いましたが、この白藍よりも濃い藍色というのが当然存在します。というよりもこちらの濃い色のほうが有名だと思うのですが、一番濃く深い色の藍色を「深藍色(こきあい)」、次が「中藍色(なかのあい)」 、「浅愛色(うすきあい)」、ときて、最も薄いのがこの白藍色になります。この「深」、「中」、「浅」という色の分け方ですが、古色では頻繁に目にします。紫にもありますし、たしか緑にも使われていた記憶がありますね。どっからどこまでが深でどこからが中なのか非常にわかりにくいです。誰か教えてください(マテ。

 さて、一番初めの紹介で白藍の別色を藍白、白殺し、という風に書きましたが、実は正確ではありません。と、いうより本来は別物です。藍染めをされておられる方はご存知だと思いますが、藍染めは何度も染めを繰り返すことで薄い色から濃い色へと染めていきます。「藍白」というのはこの藍染めの一番初期の段階(一回染めを終えた後の状態の色)のことを指します。一方、「白藍」ははじめからその色の濃度になるように染料を調整し一回で染め上げた色を指します。このように出来上がりとなる色は近しいのですが、その色を染める道筋は異なっているのをお分かりいただけると思います。

 が、基本的に色目は近く、両方とも藍染めで最も薄い、というように理解されていますので、ここでは同じ色として扱わせていただきました。今日は二色紹介するということなので、「白藍」はここまで。

 では次の色へ~。


「白緑(びゃくろく)」


 ……またえらく薄い色が連続で出てきますね~。
 今日、二色目は「日本伝統古色、白緑」です。例によって上の色見本に模様があるのは無視しちゃってください。
 まずはじめに。
 この「白緑」なのですが日本伝統古色ではあるのですが、染め色ではありません。何を言っているのかというと、この白緑は染料の色ではなく、顔料の色です。前にブログの中でお話ししましたが、基本的に染料と顔料とは扱いが全く異なります。染料は繊維の中に入り込んで染まるのに対して、顔料は絵具と同じように、接着剤で繊維の表面にくっつき紙や生地に色を付けます。日本画などをされておられる方はご存知かと思いますが、日本画に使われる顔料は岩や鉱物や貝殻などを砕いて粉にしたりすることで得られます。
 この白緑も同じく、孔雀石(マラカイト)を砕いた粉末をさらに細かくしたものです。古色の名に「緑青」というものがありますが、その原料は白緑と同質のものです。ただ、細かくした分色が薄く見える、ということから、白緑と緑青とは別の色として認識されています(実際、白緑は見本によってかなり濃淡の差が大きいように思います。粒子の細かなものは薄い色に見えますし、粗いものは濃く見えます)。
 白緑のもととなる緑青は仏教伝来と時を同じくして日本に伝わったということですから、この白緑もそれくらいの時代から使われてきたのでしょう。

  染色業界の中で緑色は不遇な色、という印象を個人的に持っています。というのは、若草や葉っぱなどに由来する中くらいの濃さの色名はたくさんあるのですが、この白緑のような薄い色の緑となるとあまり色名を思い浮かべることができません(私の不勉強かもしれませんが)。たぶん、A.F.Eではこの白緑が緑系列で最も薄い色になると思いますし、世間で認知されている緑系の色名でもこの白緑が最も薄い色になるのではないかな、と思います。……秘色があるじゃないか、という突っ込みはここでは聞きません(オイ。

 パソコンのディスプレイ上できちんと色見本が再現して見られるのかどうか非常に気になるところなのですが……第三回、色についてのあれこれ「白藍」、「白緑」についてはこれで終わりたいと思います。
 ……桜色の時よりはあっさりした紹介になってしまいましたが、これは私の色の好みの問題だと思いますので改善できません(マテ。
 
 それは皆様、次のブログでお会いしましょう。
 長文失礼いたしました。

遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室

2009年7月29日水曜日

第二回、色についてのあれこれ「桜色」

 あたかも時が止まったかのように、遅々として更新が滞っているのはなんで?
 と、周りから物言わぬ圧力にさらされております。隣に座っている偉い人、露骨に横で溜息をつかないでくださいお願いします(←はよ書け(A.F.E一同)

 さて、皆さんこんにちは。Colour Labからお届けします。本当に久しぶりの更新になってしまいました。
 前回更新が三月ですか……。これは、まぁ、なんといいますか春眠暁を覚えずといいましょうか。私にとって七月は春と同じということなのでしょうね(マテ。……冗談はともかく。

 もうしばらくしたらHPでもこの4か月の成果をご紹介させていただけると思うのですが、まずはちゃちゃっとほったらかしのことから手をつけていきたいと思います。

 第二回、色についてのあれこれ「桜」。はじめますー。

 「桜色」


 初めに紹介する色はこの色と決めていました。本当は桜の季節に合わせてご紹介させていただきたかったのですが、過去のことはもう振り返りません(開き直った)。春爛漫のころには、花見に行かれた方もたくさんいらっしゃたのではないでしょうか。
 日本人の桜好き、というのは今に始まったことではなく、江戸時代は勿論、遠くは平安時代にまでさかのぼります。平安時代当時の桜といえば、現在の「ソメイヨシノ」ではなく、「山桜」のですが、その淡い薄紅色は当時の人々をも虜にしました。この当時、日本人の服装といえば当然和装なのですが、桜の名前は重ねの色に頻繁に出てきます。
 重ねというのは何かというと、和装をされておられる方はご存じだと思いますが、着物の表裏の色を変えることによって色を表現する手法です。たとえば、表は白、裏に赤花という色の組み合わせを「桜の重ねの色」という風に表現します。赤花という色は……これもそのうち紹介するかもしれませんが、基本的には明るい赤色です。この赤花を白い生地越しに見ると、やや薄いピンク色に見えると思います。このように、裏の色を表の生地ごしに透かして色を見た時、見える色合いを重ねの色、という風に言います(説明が下手ですいません^^;)。
 現在に生きる私たちからすれば、こういう重ねの手法などをとらずに最初から桜色に染めた布でおしゃれしたらいいんじゃないの?、と思われるかもしれません。その方が早いように思いますし。しかし、染屋の立場から考えると、おそらく当時の染色技術では、淡色の染色は色が安定しなかったのではないかな、と想像してしまいます。色止めとか、そいう薬品が全く発達していなかった時代ですから……。桜色のような薄い色では太陽の光なんかで簡単に色が飛んでしまったのではないかなぁ、と。日本の伝統的な古色として、現在でもたくさんの色名が伝わっていますが、これらの伝統色の多くは基本的に中色から濃色の染色が多く、薄い色は濃い色に比べずっと数が少ないように思います。この「桜色」も「重ね」ではなく染め色で出てくるようになるのは平安時代から下ること数百年、江戸時代に入ってからだとも言われています(江戸中期、紺屋伊三郎染見本帳より)。

 つまり平安時代の人たちは、どーしても桜色を着物に加えたいという切実な思いから、重ねの色という着こなし方を考えついたのかもしれません。……すごい色へのこだわりです。そして文献をひも解くと彼らの桜色への情熱がものすごいものだったということを見て取れます。。例えば、上では桜の重ねの色は「表は白・裏は赤花」という風に書きましたが、別説が19も存在します(おそらく一つの重ねの色目でこれだけの説があるのは「桜」のみだと思います)。また、その別説というのもちょっと考えさせられるものでして。普通、桜を思い浮かべるとき、私たちはピンク色を思い浮かべると思います。だから裏に赤、表に白の重ねは容易に理解できるのですが、表に白、裏に二藍、を用いることで桜の重ねとする、という別説があります。二藍というのは中色ほどのややくすんだ紫のような色です。当然、紫に白を重ねてもピンク色には見えないでしょう。桜の色にはふさわしくないように思えます。しかし、もし日差しの強いとき桜の花が日陰に入っていたのなら、あるいは黄昏時に月が桜を照らしていたのなら、その花びらが紫に見えることは十分に考えられます。実際に染めてみるとわかるのですが、桜色を染めるには赤一系統の染料で染めても桜色にはなりません。隠し味に多少の黄系統の染料も入れますが、青系列の染料は必須なんです。この青味が光線の加減や強さによって、桜の色を薄紫にも変えてくれるのでしょう。その移ろいを当時の人は観察していて、だから桜の重ねに「表白、裏二藍」なんていう、組み合わせができたのだと思います。こういう別説が桜の重ねには19。群を抜いています。

  加えてこの桜色、「桜の重ね」とは別の重ねの色として、「樺桜」、「紅桜」、「白桜」、「松桜」、「花桜」、「薄花桜」、「桜萌黄」、「薄桜萌黄」、「桜重」、「葉桜」、「薄桜」などどんだけ桜が好きなんよ、というくらい「桜」にちなんだ重ねの色目があります。これらの重ね色にも多くの別説がありその組み合わせを考えると当時、いかに桜が特別なものだったのかと、想像するにやぶさかではありません。

 日本伝統古色の中で、桜色は紅染めの中で最も淡い色調をもつ色だとされています。事実、古色に分類される赤系統の色でこの桜色よりも薄い色はありません。……もちろん染色技術や染料の質が向上した現在、この桜色よりも薄い赤系の色というのは存在しますが桜色以上に知名度のある紅染めはないでしょう(横道にそれますが私の知る限りもっとも薄い赤系の色は「里桜」と名付けられた極薄の桜色です。あまりに赤みが薄すぎて一見すると白にしか見えない、染屋泣かせの色です。色が安定せず、染めるのが非常に困難。そのため、この色名は近い将来忘れ去られることでしょう)。
 桜色に対応する海外の色名は当然ピンクになるのでしょうが、その歴史は意外に浅いことが知られています。ピンクに代表される薄い赤系の色は近世にはいるまであくまでレッドのカテゴリーに分類されており、当時はピンクも赤も区別がされていなかったそうです。

 だからやっぱり、千年以上前からこの薄紅色に執着し続けているこの国の人にとって、今でも桜色は特別な色なのではないかな、と思うのです。これが夏にも関わらず「桜色」を色の紹介の一番初めに持ってきたかった理由だったり。

 ……やはり長くなってしまいました。

 以上、色についてのあれこれ「桜色」。終わりにしたいと思います。

 また次のブログでお会いしましょう。失礼しました。


遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室

2009年3月7日土曜日

第一回 色についてのあれこれ

 ブログをご覧の皆さま、こんにちは。
 京都も3月に入ってようやく暖かくなってまいりました。御所の梅も見ごろを迎えております。もうすぐ桜ですねぇ…。今年はどこの桜を見に行こうかな、と雑誌をめくりつつ、Colour Labからお届けします。
 さて、タイトルにあるように「染めについてのあれこれ」の姉妹シリーズにあたるこの「色についてのあれこれ」。色の見方や色の名前、歴史などをお話ししたいなぁ、と思っています。「染めについてのあれこれ」よりは話の脱線が少なくなるように(「染めについてのあれこれ」読み返してみたのですが、半年過ぎて四話しか進んでない(しかも脱線が多い…)ことに愕然としましたので、今回はそうならないように……努力します(ぉ)。
 さて、色について。
 第一回目をはじめたいと思いますー。

 まず、基本からお話をしましょう。
 皆さんのまわりに無限に存在する「色」なのですが、もちろんそのすべてに「色の名前」があるわけではありません。現在、日本工業規格「物体色の色名」(JIS-Z8102)で定義されている色の名前には269色があります。
 「たったそれだけなの!?」
と、驚かれる方もおられると思うので、補足を加えますと、このJISが定義している色は「比較的知られている名前、あるいは知ってほしい名前」として取り上げたものにすぎません。JIS規格に入っていない色の名前のほうが圧倒的多いのが現状です。私が把握している色の名前は色の重複、亜種を含めれば「和名」だけで1000をはるかに超えます。これに世界の色の名前を加えたらいったいどれくらいの数になるのか、ちょっと溜息が出そうなほどです。
 なぜ、これらの色がJISに入れなかったのかというと、……たぶん、紛らわしかったのでしょう。
 色には基本的に境界線がありません。
 同時に、ピンポイントで色が指定されているわけでもありません。
 明るさはこれくらい、黄色はだいたいこれくらい、赤みはそこそこ、青は控えめに…。などで大まかにくくられた領域の色に名前をつけたにすぎないのです。当然、多すぎると色名のそれぞれの領域が重なってしまうことになります(だからいくつかの色は間引かれてしまいます)。
 
 では、JIS規格で指定されている色はピンポイントで定義されているのかというと、まったくそうではありません。
 現在、色に関するたくさんの本が出版されていますが、本によってJIS規格の色でさえも異なって表記されていることがあります。それは印刷のインクの問題ではなく、CMYBの数値から根本的に違っています。これはJIS規格の色であっても、ピンポイントで色指定をしているわけではなく、ある程度の範囲の色を示しているにすぎないことを示しています。

 では、色の名前ってなんなんでしょうか?
 見る人によって同じ名前でも色が違ってしまう、そんな色に名前をつけてもいいものなのでしょうか?
 と、私もつい最近まで悩んでいたのですが、きっとこれでいいのでしょう。
 ただ、いくら紛らわしいからといって、何百年も続いてきた色の名前をなかったことにするなんてもったいないので(というよりも、切り捨てていいものではないと私は思っています)、ここではそれらを一つ一つ紹介していこうと思います。もちろん、このシリーズで紹介するのは過去のいくつかの資料からA.F.Eが取捨したり、平均値をとったり、なんかこう、いろいろな試験をして染めた色なので、皆さんが知っている名前の色でも、皆さんの心にある「色」とはまた違った色のようになって紹介するかもしれません。
 けれどそれもご愛敬。
 こういう風に色を見る人もいるんだなぁ、と思っていただければ幸いです。
 では次回から、色についてのあれこれ、本編はじめたいと思いますー。

 今日はお知らせのみで。
 長文失礼しました。
 次のブログでお会いしましょう。

遠藤染工場 Colour Lab

2009年2月17日火曜日

第四回 染めについてのあれこれ

ブログをご覧の皆様、こんばんは。
 京都は暖かくなったと思ったら急に雪が降りはじめたりと、わけのわからない天気が続いております。なんだこの中途半端な冬は。……それはともかく。
 あらためまして皆様こんばんは。今日はColour Labからお届けします。
 前々回の話で繊維の不純物について少しお話したのですが、今回はその続きになります。

 さて、前々回の話で、フィブロイン(絹質)とセリシン(絹膠質)について少し触れたと思います。そこで高品質な絹糸はフィブロインが必要でセリシンはいらないこと、けれど、絹糸に表情(セリシンを多めに残せばシャリ感のある糸に、全部取り除けば絹特有の光沢をもつ糸に)を持たせるためにセリシンをあえて残すこともあるということをお話ししました。
 天然繊維がもとからもっている不純物を「一次不純物」と便宜上いいますが、「不純物」と呼ばれていることからもわかるように、基本的にこの区分に分類されるものが残っていると染色するにあたって邪魔するので取り除く必要があります。事前に。徹底的に。あとかたもなく完璧に。
 染めるときには邪魔にしかならない天然繊維が持つ「色素」ですが、非っ常に稀なことですが、この「色素」があることでその糸の価値が跳ね上がることがあります。
 今日はそういうお話をしましょう。
 
 今回、焦点を当てるのは「一次不純物」に属する「色素」について。ちょっと遠回りの話になるかも知れませんがご容赦ください。
 さて、本題の前に少し天然繊維が元から持っている「色素」ですが、ちゃんとこれにも色の名前があります。「生成色」「亜麻色」などが有名ですね。天然繊維は基本的になんらかの色を最初からもっています。しかし、先ほど言いましたように、染めを行う際にこのような「繊維上の色素」は邪魔になります。想像してもらいたいのですが、たとえば亜麻色の糸から淡い桜色を染めることができるでしょうか? もしかしたら染まるかもしれませんが、なんか汚れた桜色になりそうです。染糸が白に近いほど、染めやすいというのはお分かりいただけると思います。だから染め前の繊維を漂白することは非常に重要な作業と言えるでしょう。
 けれども、もし染める前の生成りの色が非常に美しい色なら、染める必要はないかもしれません。このような生成りの状態で非常に美しい色をもつ糸は非常に稀少なのですが。
「生成り色の薄いベージュみたいな色がそんなに価値あるのですか?」
と、思われる方もおられるかもしれません。
 けれど、世の中には生成りの状態で変わった色をもつ糸というものが結構あります。余談になりますが、皆さんが想像される生成り色というのは、実は私たち染屋が見る生成り糸そのままの色と一致しないこともあります。皆さんがご覧になっている生成り色は、繊維を完全に漂白したのち、改めて「生成り色」に染め直しているものがほとんどだと思います。皆さんは「生成り色」を薄いベージュみたいな色という風に思われていると思います。これはもちろん間違いではありませんし多くの糸はそうなのですが、糸の種類によっては「生成り色」じゃない生成り糸、というものもあったりします。
 絹を例にあげてみましょう。
 蚕から白い繭がとれるのはご存じだと思いますが、蚕の種類や育つ環境によって繭の色が変わることがあります。たとえば中国原産の柞蚕(サクサンと読みます。また柞蚕糸は別名タッサーシルクとも呼ばれていますが)は淡褐色、または茶褐色の繭をつくりますし、インドのアッサム地方で生息するムガサンは黄色、黄褐色の繭を作ります。ムガサンはその色から「ゴールデンシルク」とも呼ばれることもあります。…もうちょっと、なんか、こう呼び方を捻ってもよかったのではないかとも思いますが…。
 「ゴールデンシルク」なんて名前が出てきたのでもうひとつ海外の変わった絹糸を挙げておきましょう。
 これは私も非常に興味があるのですが、黄褐色とか、黄色とかではなく、本当に黄金色そのもののように輝く繭も世の中にはあるそうです。この黄金の繭もヤママユガ科に属する、学名クリキュラ・トリフェネストラータという舌をかみそうな名前の蚕からできるのですが、この蚕は本当に黄色とかじゃなく、金色の繭をつくるそうです。インドネシアのジャワ島にいるらしいのですが、私も直にその繭を見たことがありません。一度、なんとかして見てみたいものです。
 さて、こういう煌びやかな黄金の繭も非常に興味深いものなのですが、なにもこういう珍しい繭をつくる蚕は海外だけではありません。日本原産の天蚕(テンサン)は緑色の美しい繭をつくります。昔から天蚕糸の光沢は優美で深く、肌触りも柔らかく「繊維のダイヤモンド」とも呼ばれるほど希少価値をもっていました。その稀少性のために高価です。どれくらい稀少かというと、天蚕のみで織った布の反数は年間で数十反くらいという稀少さ(うろ覚えで申し訳ありません。もしかしたら今はこれ以下の生産量にすぎないかもしれませんが、それくらい稀少なものです)。
 天蚕にせよ、黄金の繭にせよ、ムガサンにせよ、これらの絹は絹自身がもつ「色素」があるがために美しい色を発色しています。こういう糸を前にすると私たち染屋は完全に脇役になってしまうのですが、天然でこれほどいい色に出会えるというのもまた楽しいものです。もったいなくてとても漂白作業に入れません(マテ。というより、こういう糸はそのままで使ってほしいものですね。
 ……まぁ、これは染め屋がいう言葉じゃないのですが^^;。
 残すものと削るもの、いらないと思われていたものでも見方が変わればいいものになるというお話になっているということを祈りつつ。

 今日はここで筆をおきたいと思います。
 思いつくまま書いているので読みにくい箇所があるかもしれませんが、ご容赦ください^^; 
 では、皆さん、次のブログでまたお会いしましょう。
 長文失礼しました。

遠藤染工場 Colour Lab
 

2009年2月11日水曜日

新商品「各種レースパーツ」のご案内です~

ブログをご覧の皆様、こんにちはっ。
今日はA.F.E企画室からのご案内です。

「各種レースパーツ」、葉っぱと花のネット販売はじめました。
まだ何色か新色を染めてますので、また増えていくと思います。
さて、この葉っぱ。
イベント用にぼかしに染めているものもありまして、そっちは手染めなのですが、
「これもネットに出していいですか?」
と染め現場に聞いたら、
「無理(^▽^」
と、染めのほうに笑顔で言われたので、ぼかし染めのほうはしばらく店舗限定品とさせていただきます(ぇ。こういうパーツぼかしみたいなものはたくさん作るのも難しいですし、同じものを作るのはもっと難しいということ。試験室にあるぼかし葉っぱも一枚一枚手染めですので全く同じものはないようです。ですから、なるべくパーツぼかし商品は、皆様の手にじかにとって見ていただいて選んでいただきたい、とのことです。中には作り手のかたの気にいっていただけるものもあるかもしれません。
企画室お勧め、新色ぼかし葉っぱはもうしばらくしたら店頭のほうに並ぶと思います。
単色染めも堅牢染めで頑固に染めていますので、色落ちしないいい商品になっていると思います。ぜひ一度お試しくださいませ。

新商品のご案内でした。
それでは、皆様、次のブログでお会いしましょう。失礼いたしました。

Art Fiber Endo 商品企画室

2009年2月6日金曜日

第三回、染めについてのあれこれ

 ブログをご覧の皆様、こんばんは。
 今日もColour Labからお届けいたします。奇跡だ(マテ。
 
 不純物の話について話そうかと思ったのですが、やはりロット段の話を終わらせてからにしたいと思います。ロット段が出る理由その3、染料によるロット段の話、はじめますー。
 染料とひとくくりにしていますが、染料には化学染料と、草木染めなどに使われるような天然染料に分けられます。蛍光染料という区分もありますが、これも化学染料なのでひとくくりにしましょう。
 天然染料はご存じのとおり、動物や植物から取り出されます。有名どころはアイ、アカネ、ベニバナなど。ほかにも色々あります。天然染料のいいところ、悪いところ上げればたくさんあるのですが、ロット段に関して言えば一つの共通点を持ちます。それは、天然由来であるため染料のロット段が大きく、別ロットでの色の再現性は化学染料よりも一般的に低いというものです。もちろん、熟練の職人の手によればロットの分かれた染料を使用しても色差は小さくなると思うのですが、普通の人が染めることを考えた場合、天然染料は化学染料よりもロット段による色のブレが大きくなるのは否定できないと思います。
 化学染料が発達した現在、普通の染屋は化学染料を使用しています。この種類の染料は化学的に合成されているため、天然染料よりもロット段が小さく、種類が非常に多いのが特徴です。また、色落ちがしにくい高堅牢度を保持した染料も多く、現在のアパレル業界での染色は化学染料がなければ成り立ちません。均質な染料を安定的に供給するという意味で、化学染料は最高の品質を持っていると思います。
 しかしながら、この化学染料でもロット段は発生します。
 たとえば、Aという染料について言いますと、生産ロット1495番の染料と1496番の染料との間には基準値からプラスマイナス3%(基準値から色が最大3%薄くなる、あるいは濃くなる)という無視できないロット段があります。これは私の体感からお話しているわけではなく、染料メーカー自体がそのように公表しているのですから、やはりロット段はあるのでしょう。
 以前お話ししたように、三原色が均等に入るような色合い(ベージュ、グレーなど)はわずかな染料投入量のぶれでも色が変わって見えてしまうのですから、ロット段による色のブレは無視できないレベルになってしまいます。
 もちろん、同ロットの染料を使用すればこういうことは考えなくてもいいのですが、たとえば定番色のような何年も続くような色については、やはりどうしてもどこかで染料のロットが変わってしまうことになります。その時は同じ染料を使用し、同じ染料%を採用したとしても色が揺れることもあるでしょう。
 手芸をされておられる皆さんの中には定番の刺繍糸のはずなのに、色がまったく変わってしまっている、という経験をされた方もおられるかもしれません。これもロット段だと思われるのですが、この場合はもしかしたら染料そのものが変わっている可能性もあります。
 定番色というのは何年、時には何十年も続く商品です。
 その間に使用していた染料が廃番になってしまったりすることもあったりします。当然、違う染料で元の色に近づける作業をするのですが、それでも再現しきれない場合などがあるのかもしれません。染料が変わると演色性の問題が必ず発生しますからね……(この演色性という言葉、どうか覚えておいてほしいです。後日、演色性について詳しく説明したいと思います。これは色を見る上で最も重要なものにも関わらず、業界においてすら軽視されているというかなり難儀な問題を説明するのに必要なので)。
 というわけで。
 ロット段が起こる理由、なんとなくわかっていただけたでしょうか?
 繊維の性質、染料のロット、それから人の手による不確実性。ほかの条件はすべて同じにして、使用する染色機械が変わるだけで色は変わってしまいます。それほどまでに色というものはすごく微妙。
 だから、本当は必要な分を必要なだけ染めて使うのが一番いいのです。必要な量を見極めるのは難しいかもしれませんが、本当はそれが一番。……という話は、染屋の本分としてどうなのよ、と思わないでもないのですが。

今日はここまでにしたいと思います。
皆様、次のブログでお会いしましょう。失礼しました。

遠藤染工場 Colour Lab

2009年2月3日火曜日

第二回 染めについてのあれこれ

9月30日からのご無沙汰です。Colour Labからお届けいたします……。
……サボっていたわけではないですよ(イイワケヨクナイ。
気を取り直して、染めについてのあれこれ。第二回、はじめます~。

 さて前回、ロット段とは「全く同じ染めを再現することができないために発生する色違い」というところで話が終わっていたと思います。今回はそれの続きです。
さて、同じ染めを再現できない理由は人間のせいだけではありません。染料や素材がロット段の原因になることもあります。
 絹、綿などの天然繊維は糸の状態になるまでに多くの工程を経ることもあり、ブレが発生しやすくなります。絹糸について詳しく見ていきましょう。ちょっと横文字がでてきますが「あぁ、謎の言葉だな」と、聞き流していただいて結構です(マテ。

 さて、絹糸の原料となる生糸は
 フィブロイン(66.7%)、セリシン(20.5%)、水分(11.0%)、以下、ロウ・脂質、灰分、色素で構成されています。たとえば上質の着物などに使われる絹糸として利用できるのはフィブロイン(絹質)のみで、残りのものは不純物で使えません。最初からこういう不純物がなければ便利なのですが、この不純物は生糸固有のものなのでどうにもなりません。生糸に限らず天然繊維は大なり小なり不純物を含みます(セリシンは生糸固有)。このように素材そのものに最初から含まれる不純物を一次不純物といいますが、化学繊維が天然繊維に比べてロット段が生じにくいのは最初からこの一次不純物を含んでいないことも理由に挙げられます。
 ちょっと話を脱線します。一次不純物が悪者のような言い方をしていますが、実はそうとも言えません。たとえば、セリシンの含有率で絹は表情を大きく変えてくれます。昔から職人はセリシンを残すことで絹糸に表情を持たせてきました。100%セリシンを除去する精練を本練りといいますが、ほかに七分練り、半練り、三分練りなどなどなど。セリシンを残すことでシャリ感のある絹糸になってくれるのです。
 また、染には関係ありませんがセリシンは化粧品の材料としても非常に有益です。抗酸化効果や保湿効果をあげた化粧品にセリシンを原料にしているものも多いのではないでしょうか。閑話休題。
さて、話を染めに戻しますが、一次不純物を取り除く過程で差が出てしまったり、そもそも天然素材ですから素材そのものが均質でなかったりという理由からもロット段は発生してしまいます。
 ……化学繊維が発達したのはそういう理由もあったのかもしれません。安く均質な製品を望まれたとき、化学繊維は天然繊維よりもすぐれた面があるのは確かです。が、セリシンのように混ざりものがあることで糸が生きる場合もあります。次回はそういう話をしたいと思います。
 ……ちょっとまとまりのない話になってしまいましたが、今日はここまでにしたいと思います。

それでは、皆さん次のブログでお会いしましょう。失礼しました。

遠藤染工場 Colour Lab

2009年2月2日月曜日

東京国際キルトフェスティバルのご来店の御礼と新商品「チュール」のご案内

ブログをご覧の皆様、こんばんは。A.F.E商品企画室からのお知らせです。
 まずは1月24日に閉幕しました東京国際キルトフェスティバル、去年を上回るたくさんの方にお越しいただきました。多くの方からご意見をいただき、A.F.E一同、篤く御礼申し上げます。一週間と少しが過ぎましたが、東京から送った荷物もようやく整理が終わり、A.F.Eも通常運営再開です。商品企画室からはしばらく新商品のご案内が続くと思います。今日はそのひとつめ。新色チュール(35色)のご案内ですー。
 素材自体はこれまでの「手染めぼかしチュール」と同じものを使用しています。ご存じのとおり、これまでは単色染めのチュールはなかったのですが、「単色のものもあったら便利」という声をたくさんいただきましたことで生産にGoサインが出た商品です。皆様の作品の彩りになれば本当に幸いです。

今日は短いですがここまでに。
それでは皆様、次のブログで。失礼いたしました。

2009年1月22日木曜日

東京国際キルトフェスティバル開催中です~

ブログをご覧の皆様、あけましておめでとうございます(遅

松がとれようが小正月が過ぎようが、正月気分がまだ抜けきらないA.F.E商品企画室から今回もお届けいたします(コラ。

タイトルにありますように、東京国際キルトフェスティバル、絶賛開催中です。このお祭りも残すところあと2日になってしまいましたが、まだお祭りは終わってませんよ~。
A.F.Eも出店させていただいておりますが、私個人としては出展者というよりも見学者といった方がいいのではないかというほどA.F.Eの出展ブースにいないので(…ぉぃ)、ご来場いただいておられる皆様と、ほぼ同じ気持で会場を見回したと思います。そんな感じで、私も初日から3日ほど会場をうろうろしておりましたが、作品はもちろん気になるお店がいくつもあったりと、手芸好きの方ならぜひ一度見ていただきたいなぁ、とお勧めできるイベントになっていると思います。会場の写真は下に…。



 はい。会場が大きすぎて一部分しか切り取れておりません。とりあえず、通りは上の写真のような感じです。中央の作品が展示されている区画を囲むように店が配置されているのがわかります。基本的には入場口付近のお店が作家様のお店。で、作品区画を対角線上にはさんだ逆の区画に普通のお店が並んでいるようです。

それにしてもオート撮影機能万歳と叫びたくなるほどピンボケしておりません。よく撮れていると思います。(当たり前だ。


 ……などとわけのわからないことを書きながら、今日はここまでにしたいと思います。このお祭りが終わればA.F.Eにも日常が。そろそろColour Labのほうをすすめたいと思いますー。

皆様、長文失礼いたしました。

それでは……。

Art Fiber Endo 商品企画室